竹皮が欲しいんです!

  ある方からもち米を沢山頂いた。「とっても美味しいですよ…」と。しかし家人はおこわは嫌い。特にめでたいこともないから赤飯も炊かない。参鶏湯を作ってみようかなと思ったけれど、若鳥丸々一羽や朝鮮人参は手に入りにくい。どうしたもんかな…と思案していたところへひらめいた!端午节(duan 1 wu 3 jie 2 )がやってくるではないか!そうだ、 チマキ(粽子 zong 1zi) を作ろう!

 

  日本でも5月5日は「端午の節句」と言って子供の健康な成長を祝う日となっているが、これはもともと中国から来たもの。毎年旧暦の5月5日には中国でも粽を食べるのだ。中国のそれは日本のものと違って竹の皮にもち米(懦米 nuo 4 mi 3)や豚肉(猪肉 zhu 1 rou 4)、ナツメ(枣子 zao 3 zi )などを包んで蒸したもの。中華料理店で食べたことがある方もおられるだろう。毎年今頃の季節になると、中国では街のあちこちで粽子を売り始る。日本におにぎり位の量なので、街歩きの途中、小腹がすいたときにはもってこいのおやつ(小吃 xiao 3 chi 1)だ。

 

  さて、粽子を作ろうと思ったのはいいが、竹の皮はどこで手に入るのか?スーパーでは見たことがない、ネットで探してみるけれども送料の方が高くつく…。「ああ、折尾に中国食材を扱っている店があったな、あそこなら…」と思い出し、ほかの食材の買出しも兼ねて行って見ることにした。この店は学生街にあり、中国からの留学生を相手に中国人が経営している。小さな店だが一歩入るとそこは中国。経営者なのか、いつも中年一歩手前の男性が一人静かに座っていて、客が来ると「请进! (qing3 jin4 どうぞお入りください)」と挨拶をしてくれる。この一言で私は一気に中国モードになり脳内の言語中枢において日本語奥に引っ込み、中国語が前面にでてくる。

 

 「请问,你们这儿有竹皮(zhupi)卖吗?」(すみません、こちらは竹皮は売ってますか?)

 「zhupi 吗? 现在没有。」(タケカワですか?今はありません。)

 

  この時彼が発した「zhupi」と、私が発した「zhupi」の声調が違うように聞こえたが、広い中国のこと、地方によって、あるいは人によって訛があり、若干声調が違うこともあるので気に留めず話を続けた。

 

 「什么时候有? 能帮我买进吗?」(いつだったあります?仕入れてもらえますか?)

 「可以。货到了给你打电话啊。」(いいですよ、入ったら電話します。)

 

  数日後入荷したとの連絡を受けて早速店に取りに行った。「ああ、ハイハイ」と、かの男性は一度奥に引っ込むと、手に一つビニール袋をぶら下げて出てきた。中にはカチンカチンに冷凍された板状のものが入っていた。あの時ちょっと違うと思ったのは、これだったのだ。私は 竹皮 zhu 2 pi 2 と言ったが、彼は 豚皮 zhu 1 pi 2 と言っていたのだ。

 

  日本では専門のレストランならいざしらず、豚皮なんて一般家庭の食材には使わない。大体、豚皮を売っているとか手に入るとか想像すらしたことがない。私の頭の中には豚皮は食材として存在しない。もし豚皮も歴とした食材で普通に手に入ると分かっていれば、声調が違うと感じたときに「いやいや、豚じゃなくて竹。粽子を包むやつ」と確認ができたはずだ。店の方としても扱っているのは食材だけなので、包装用の竹皮は頭になかったんのだろう。

 

  ああ、なんと!ここで私は「頼んだのはこれではない。竹皮が欲しかったのだからこれは要らない。」と言うことも出来たのだか、妙なところで気の弱さを発揮する癖があり、「ああ、どうも」と受け取った。

男性は  「以后要的时候,就说吧。我随时给你买进」(今後、要るときは言ってください。何時でも仕入れますから)と、笑顔で私を送り出してくれた。

 

  結局欲しかった竹皮は近くの小売業向けに包装資材を売っている店でいつでも取り扱ってることが分かり、後日手に入れ、無事粽子を作り、もち米を大量に消費した。しかし、この豚皮どうしたものか。とりあえず冷凍庫でお休みいただいている。